米国の出生地主義と代理出産:2026年9月の裁判所判決が依頼者に与える影響 

米国で代理出産を検討している海外在住の依頼者は、2026年8月に発令された、出生地主義による市民権の付与と、いわゆる「出産ツーリズム」に関する2つの大統領令について、不安を感じているかもしれません。一方の大統領令では、代理母との商業的な契約について明示的に言及され、もう一方ではビザの発給や入国に関する方針が焦点となっていました。9月2日、メリーランド州の連邦判事は、訴訟が継続している間、裁判所が定めた特定の範囲に該当する子どもに対して、連邦政府当局が市民権に関する大統領令を適用することを禁じる仮差止命令を出しました。 

結論から言えば、安心できる要素はありますが、慎重な対応も必要です。9月2日の判決は、裁判所が定めた対象範囲に該当する子どもに対して、重要な保護を与えるものです。また、米国最高裁判所は、米国内で出生した子どもは、親が不法滞在者または一時的な滞在者であっても、出生時に米国市民となることを確認しています。ただし、この差止命令は暫定的なものであり、保護の対象は裁判所が定めた特定の範囲に限定されます。また、代理出産、市民権、パスポート、ビザ、入国審査に関するあらゆる問題が解決されたわけではありません。 

また、これらの大統領令は、その文面上、代理出産を禁止したり、州裁判所が出した親子関係に関する命令を取り消したり、州の代理出産関連法を無効にしたりするものではありません。市民権の認定、州法に基づく親子関係の確立、出生証明書の発行、パスポートの取得、そして依頼者の移民法上の在留資格は、相互に関連しているものの、法律上はそれぞれ別の問題です。 

 

要点:2026年9月2日に何が変わったのか? 

メリーランド州連邦地方裁判所のデボラ・L・ボードマン判事は、訴訟 CASA, Inc. v. Trump において、仮差止命令を出しました。この命令により、被告である連邦政府機関および政府職員は、すでに認定されている集団訴訟の対象者に対して大統領令14418号を適用すること、または対象者の市民権を妨げることを禁じられました。 

この対象集団には、原則として2025年2月19日以降に米国内で出生し、出生時に母親が不法滞在者、または合法的な一時滞在者であり、父親が米国市民でも合法的永住者(永住権保持者)でもなかった子どもが含まれます。 

ただし、これは最終的な判決ではありません。訴訟は引き続き進行する可能性があり、政府が上級裁判所に審査を求めることもできます。また、今後、差止命令が変更または解除される可能性もあります。さらに、裁判所は、連邦政府機関が制度の実施に関する指針の策定を継続することも認めました。 

今回の判決は、2026年6月30日に米国最高裁判所が下した Trump v. Barbara の判決を受けたものです。最高裁判所は、不法滞在者または一時滞在者である親のもとに米国内で出生した子どもは、米国憲法修正第14条に基づき「出生時に市民権を有する」と判断しました。 

これを踏まえ、メリーランド州の裁判所は、大統領令14418号を上記と同じ対象集団に適用することは、違憲と判断される可能性が極めて高いと結論づけました。 

 

大統領令14418号は、代理出産について何を定めていたのか? 

ドナルド・トランプ大統領は、2026年8月6日、大統領令14418号 に署名しました。この大統領令は、両親のいずれも米国市民ではない場合において、一定の条件に該当するケースでは、米国市民権を認める書類を連邦政府の各省庁・機関が発行または受理しないよう指示するものでした。 

その規定の一つには、出生地主義に基づく市民権を取得する目的で、親が商業的な取引を行ったとされるケースが含まれていました。具体的には、米国内にいる代理母との間で、出産を目的とした取引を行うケースも対象として挙げられていました。 

この文言は、米国での代理出産が合法的に行われ、必要な書類も適切に整えられ、移民法を回避する意図がなかった場合であっても、海外在住の依頼者に不安を抱かせるものでした。 

9月2日の裁判所の判断は、大統領令に列挙されたすべての個別のケースについて、合憲性を最終的に判断したものではありません。裁判所は、最高裁判所がすでに、認定された対象集団に属する子どもは出生時に米国市民となると判断していることから、この対象集団に適用する限りにおいて、大統領令は違憲と判断される可能性が高いと結論づけました。そして、裁判所は、対象集団に属する人々に対して大統領令を適用することを差し止めました。 

 

最高裁判所は、出生地主義に基づく市民権の主要な論点について、すでに判断を示しているのか? 

はい。2026年6月30日に出された重要な判決で、最高裁判所はこの問題について判断を示しています。Trump v. Barbara において、最高裁判所は、不法滞在者または一時滞在者である親のもとに米国内で出生した子どもは、米国の管轄権に服し、米国憲法修正第14条に基づいて出生時に米国市民となると判断しました。 

最高裁判所は、出生時に市民権を取得するという従来の原則は広く適用され、例外は歴史的に限定されたものだと説明しました。判決では、通常の米国の管轄権が及ばないことに関連する例として、外国の外交官の子どもや、敵対勢力による占領下の領土で出生した子どもについても言及しています。一方、代理出産に特化した例外は設けていません。 

この最高裁判所の判決は、法的拘束力を持つ先例であり、メリーランド州の連邦判事が判断を下すうえでも重要な根拠となりました。9月2日の裁判所の判断では、大統領令によって、認定された対象集団に属する子どもは出生時に米国市民となるという最高裁判所の判断を覆すことはできないと明示されました。 

 

この差止命令は、米国で代理出産によって生まれるすべての子どもを保護するのか? 

仮差止命令によって、すべての代理出産のケースが自動的に解決されると説明するのは正確ではありません。 

この差止命令が保護するのは、出生時における子どもの母親と父親の在留資格に基づいて定義された対象集団に属する人々です。代理出産では、誰が「母親」「父親」または「親」に該当するかは、連邦政府の方針における文言、遺伝上または妊娠・出産上の関係、そして州法に基づく親子関係の規定によって異なる場合があります。例えば、米国市民である代理母の場合、認定された対象集団で定義されている一時滞在資格の母親とは、事実関係が異なります。 

そのため、依頼者は、自分たちの赤ちゃんが大統領令の対象外であると決めつけることも、9月2日の差止命令が自分たちの個別のケースに確実に適用されると考えることも避けるべきです。生殖補助医療に詳しい弁護士に加え、必要に応じて移民法や国籍法を専門とする弁護士に相談し、以下の点を含めて個別の事情を確認してもらうことが重要です。 

・赤ちゃんが出生する場所
・代理母の市民権および在留資格
・各依頼者の市民権および在留資格
・遺伝上および妊娠・出産上の関係
・適用される州における親子関係の確立手続き
・出生前または出生後の親子関係に関する裁判所命令の文言と発令時期
・出生証明書およびパスポートの取得要件
・依頼者のビザの種類と渡航履歴 

 

大統領令によって、米国での代理出産は違法になったのか? 

いいえ。大統領令14418号は、特定の状況における市民権に関する書類の連邦政府による認定について定めたものです。この大統領令自体が、妊娠を伴う代理出産(Gestational Surrogacy)を禁止したり、州の代理出産関連法に取って代わったり、州裁判所が発令した親子関係に関する命令を取り消したりするものではありません。 

代理出産と親子関係の確立は、引き続きおもに州法によって規定されており、必要な要件は州によって異なります。州裁判所の親子関係に関する命令によって、州法上の法的な親が誰であるかを確立できます。一方、米国のパスポートや市民権に関する書類など、連邦法上の事項については連邦政府機関が判断します。 

そのため、依頼者は、州法に基づく適切な親子関係の確立計画を立てるとともに、自分たちに適用される連邦政府の書類手続き上の問題についても、専門家の助言を受ける必要があります。 

 

市民権、親子関係、出生証明書、パスポートは何が違うのか? 

これらの書類や法律上の概念は、しばしば一緒に取り上げられますが、それぞれ意味が異なります。 

・市民権(Citizenship):米国憲法および連邦法によって定められる法的な地位
・親子関係(Parentage):誰が子どもの法的な親であるかを確定するもの。米国での代理出産では、通常、州法および裁判所での手続きを通じて確立される。
・出生証明書(Birth Certificate):州が発行する公的な身分記録。出生の事実を記録し、適用される法律や裁判所の命令に応じて、子どもの親も記載される。 

・米国のパスポート(U.S. Passport):米国務省が申請内容と提出された証拠書類を審査したうえで発行する、連邦政府の渡航・市民権関連書類。 

州が発行する出生証明書や、親子関係を確立する裁判所の命令は重要な書類です。ただし、これらがあれば連邦法上の市民権やパスポートの取得要件について個別の専門的な助言が不要になる、というわけではありません。 

 

海外在住の依頼者のビザ取得や米国入国については、どう考えればよいのか? 

ビザや入国に関する問題は、赤ちゃんの市民権とは別の問題です。 

2026年8月6日には、2つ目の大統領令である大統領令14419号「出産ツーリズムの終了(Ending Birth Tourism)」にも署名が行われました。この大統領令では、「出産ツーリズム」を、米国の領土内で出産することを目的として非移民ビザで米国に入国する外国人の行為、またはその目的で別の外国人の入国を手助けする行為と定義しています。また、国務省および国土安全保障省に対し、ビザ、渡航許可、入国審査に関する規則や指針を策定する権限を与えています。 

9月2日の仮差止命令が対象としたのは、大統領令14418号です。大統領令14419号の適用を停止したものではありません。 

大統領令14419号の文面には、米国内の代理母が妊娠・出産する子どもを迎えるために渡米するという理由だけで、依頼者がビザの取得資格を失うとは明記されていません。このようなケースは、ビザ申請者本人が妊娠しており、米国内で出産する目的で入国するケースとは、事実関係が異なります。 

ただし、ビザを取得していても、米国への入国が保証されるわけではありません。入国に関する判断は個別に行われます。渡航目的、申請するビザの種類、提出書類、過去の入国・在留履歴、領事官や入国審査官からの質問に対する回答など、さまざまな要素が判断に影響する可能性があります。 

米国務省が公表している従来の出産ツーリズムに関するビザの指針では、申請者のおもな渡航目的が、子どもに市民権を取得させるために米国内で出産することであると領事官が判断する合理的な理由がある場合、Bビザが拒否される可能性があると説明されています。 

この指針が対象としているのは、実際に出産する本人です。そのため、妊娠していない依頼者に対して、個別の事情を踏まえた法的検討を行わずに、この指針をそのまま当てはめるべきではありません。 

海外在住の依頼者は、以下の点に注意することが重要です。

・ビザを申請する前、または渡米する前に、米国の移民法を専門とする資格のある弁護士に相談する。
・実際の渡航目的に適したビザの種類を選択する。
・ビザ申請時および入国審査時の質問には、事実に基づき、一貫性を持って回答する。
・代理出産の計画を隠したり、重要な事実について虚偽の説明をしたりしない。
・弁護士の助言に従って必要な書類を携行する。書類には、代理出産契約書、弁護士の説明書、親子関係に関する裁判所命令、医療機関や病院に関する情報、宿泊先の詳細、資金証明、帰国の予定、米国外に生活基盤があることを示す資料などが含まれる場合があります。 

米国の連邦移民法では、詐欺や、重要な事実について故意に虚偽の申告を行うことにより、米国への入国が認められなくなるなど、重大な不利益が生じる可能性があります。米国市民権・移民局(USCIS)の政策マニュアルでは、詐欺および故意の虚偽申告に該当するかどうかを判断する際に考慮される要件について説明しています。 

 

海外在住の依頼者は、今後どのように対応すべきか? 

最も重要なのは、慌てることではなく、慎重に計画を立てることです。すでに代理母とのマッチングが成立している依頼者、出産を控えている依頼者、または渡米の準備を進めている依頼者は、代理出産の手続きを担当する各自の弁護士に、速やかに相談することをお勧めします。 

以下の項目について、関係する専門家と連携し、総合的な確認を行ってもらいましょう。 
・赤ちゃんが出生する州における親子関係の確立方針
・出生証明書の発行手続きと想定される流れ
・赤ちゃんの米国パスポートおよび市民権に関するその他の書類
・依頼者のビザ申請と入国計画
・領事面接や米国の入国審査時に携行すべき書類
・政府機関の指針、訴訟の進展、または手続きの運用が変更された場合に備えた代替計画
・依頼者の居住国における、子どもの市民権、パスポート、渡航書類の取得要件 

SNS上の要約情報、他の家族の事例に基づく推測、あるいは何らかの結果が「保証されている」という説明だけに頼ることは避けてください。 

市民権、親子関係、パスポート、移民法上の問題は、それぞれ異なる法的な論点です。個々のケースの事実関係によって、法的な判断が大きく変わる可能性があります。 

 

ACRC Surrogacyによる海外のご家族へのサポート 

ACRC Surrogacyは、米国での代理出産のあらゆる段階において、きめ細かな調整・サポートを提供しています。私たちのチームは、海外在住の依頼者が手続きの流れを理解し、重要な節目に向けて準備を進められるよう支援するとともに、代理母、不妊治療クリニック、弁護士、その他の関係専門家との円滑なコミュニケーションをサポートします。 

市民権、移民法上の問題、親子関係、パスポートなどについて疑問が生じた場合には、適切な資格を持つ独立した弁護士に相談できるよう、ご家族と専門家との連携・調整を支援します。このような協力体制により、依頼者一人ひとりの状況に応じた、体系的できめ細かなサポートを提供するとともに、法的な助言については、それぞれの事情を理解した有資格の専門家から受けられるようにしています。 

米国での代理出産を検討されており、手続きの流れ、所要期間、利用できるサポートについて詳しく知りたい方は、ACRC Surrogacyの無料カウンセリングをご予約ください。 

 

よくあるご質問 

米国で代理出産により生まれた子どもは、現在も米国市民になるのでしょうか? 

米国最高裁判所は、Trump v. Barbara 判決において、不法滞在者または一時滞在者である親のもとに米国内で出生した子どもは、歴史的に認められている限定的な例外を除き、米国憲法修正第14条に基づき出生時に米国市民となると判断しました。 

その後、大統領令では代理出産に関する文言を含む新たな適用対象が設けられましたが、連邦裁判所は、一定の対象集団について、その適用を暫定的に差し止めています。 

ただし、代理出産では、遺伝上の親、妊娠・出産した親、法律上の親が異なる場合があるため、一律に判断することはできません。個々のケースについては、専門の弁護士による法的な確認を受けることをお勧めします。 

2026年9月2日の裁判所の命令では、具体的に何が決まったのでしょうか? 

裁判所は、訴訟が継続している間、認定された対象集団に属する人々に対して、指定された連邦政府機関が大統領令14418号を適用したり、市民権を妨げたりすることを一時的に禁止しました。 

これは仮差止命令であり、大統領令のすべての適用について最終的な判断を示したものではありません。 

2026年9月の仮差止命令は、全米で一律に適用されるのでしょうか? 

いいえ。この命令は、すべての人に一律に適用されるものではなく、裁判所が認定した対象集団全体に適用されるものです。 

この対象集団には、裁判所が定めた要件を満たす、現在および将来に米国内で出生する子どもが含まれます。 

代理出産によって出生した特定の子どもが、この対象に該当するかどうかについては、弁護士による個別の判断が必要です。 

裁判所は、代理出産に関する大統領令の規定を恒久的に無効としたのでしょうか? 

いいえ。裁判所は、大統領令に記載されたすべての規定について、あらゆる状況で無効であるとする最終判決を下したわけではありません。 

裁判所は、認定された対象集団に適用する限りにおいて、この大統領令は違憲となる可能性が高いと判断し、その対象集団に対して暫定的な救済措置として仮差止命令を出しました。 

海外在住の依頼者は、赤ちゃんの出産のために引き続き米国へ渡航できますか? 

大統領令14419号には、米国内の代理母が出産する子どもを迎えるためという理由だけで、依頼者の渡米を自動的に禁止する規定はありません。 

ただし、ビザの発給や入国の可否は、個別の事情に基づいて判断されます。 

依頼者は、移民法に詳しい弁護士へ相談し、渡航目的に適したビザを選択するとともに、ビザ申請や入国審査では正確かつ誠実な情報を提供することが重要です。 

親子関係に関する裁判所命令があれば、赤ちゃんの米国パスポートは必ず取得できますか? 

いいえ。一つの書類だけでパスポートの取得が保証されるわけではありません。 

親子関係に関する裁判所命令は、州法上の法的な親子関係を確立するものです。一方、米国パスポートの発給については、米国務省が申請内容と提出された証拠書類を審査したうえで、連邦法に基づいて判断します。 

ACRCは、法律や移民に関するアドバイスも提供していますか? 

いいえ。ACRC Surrogacyが提供するのは、代理出産に関するコーディネートや一般的な情報提供であり、法律、移民、または領事手続きに関する法的助言を行うものではありません。 

依頼者ご自身の状況に応じた法的・移民に関する助言については、代理出産および移民法を専門とする独立した弁護士にご相談ください。 

 

参考資料・関連情報(英語版) 
・米国最高裁判所:Trump v. Barbara(2026年6月30日) 
・ホワイトハウス:大統領令14418号(2026年8月6日) 
・CASA, Inc. v. Trump に関する2026年9月2日付の裁判所意見書(訴訟記録の写し) 
・AP通信:連邦判事、新たな出生地主義に基づく市民権に関する大統領令の適用を差し止め
・連邦官報:大統領令14419号「出産ツーリズムの終了」 
・米国務省:出産ツーリズムに関する最新情報 
・米国市民権・移民局(USCIS)政策マニュアル:詐欺および故意の虚偽申告  

免責事項: 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、2026年9月3日時点で入手可能な情報源に基づいています。法律、移民、国籍、領事手続き、税務に関する助言を提供するものではありません。法律、裁判所の命令、政府機関の指針、各種手続きは変更される可能性があり、個々の事情によっても対応が異なります。ご自身の状況に関する具体的な判断については、適切な資格を持つ法律専門家、および関係する政府機関や領事機関にご相談ください。 

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